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第3章 佐吉という男

　
「行長という人は、近江からの家臣だと」

「近江派の子飼いは、武勇を磨く尾張派の皆さんを野蛮だと蔑み、武士だというのに書物に明け暮れる日々。当然二つの派閥は気が合わず、衝突する事も少なくはありません」

　志麻は尾張派に肩を持っているのか、近江派をこき下ろす。だがどちらが正しいのか大海には判断出来ないため、ただ頷き聞くしかなかった。

「ですが譜代の臣がない秀吉様にとって、親族の縁は何より重大なもの。その秀吉様があなたを市松さんと虎之助さんに渡したのですから、あなたは決して二人を裏切ってはなりません」

　志麻はそう言うが、秀吉は「皆仲良く」と言って大海を下げ渡していた。秀吉はどちらかの肩を持つ訳ではなく、仲介を期待していたのだろう。女一人で仲良くなれるとは思えないが、秀吉が苦労しているのは窺えた。

　どの道、誰が子飼いでどこまでの男に奉仕するべきなのかなど、城に来たばかりの大海には分からない。尾張派であろうと近江派であろうと、拒否できるならどこまでも拒否したかった。

「今日は疲れもあるでしょうから、休みなさい。それと城の中を見て回って、少し覚えておくように。小夜さんに案内してもらいなさい」