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戦国ラブドール
第16章 眠れぬ夜は
長浜城に面する近淡海は、荒れた佐吉を前にしても静かに広がっている。苛立ちに任せて石を投げても、小さな波紋はすぐに消えた。
「佐吉、外は寒いよ。ほら、綿入れ持ってきたから着て」
吉継が声を掛ければ、佐吉は眉間の皺を深くする。差し出された綿入れを突っぱねると、そっぽを向いた。
「帰れ。今は誰とも話したくない」
「嫌だ。佐吉は僕の都合を気にしないで上がり込んでくるのに、僕は佐吉の気を遣わなきゃいけないなんて不公平だ」
吉継は佐吉の隣に立つと、近淡海を見つめる。佐吉はますます棘を鋭くしながらも、その場から逃げる事はしなかった。
「後で、ちゃんと大海に謝るんだよ。彼女は友達の祝言を、心から喜んだだけ。何も筋の曲がった事はしてない。八つ当たりだって、自分でも分かってるでしょ?」
「余計なお節介はいらん。そんな話なら帰れ」
「本題はここから。僕が気になるのは……志麻だ」
「志麻?」
吉継から出た予想外の人物に、佐吉は思わず吉継と目を合わせてしまう。するとすかさず吉継は綿入れを突き出し、佐吉に押し付けた。