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戦国ラブドール
第17章 高虎と若虎
行長は駆け足で動き出し、虎之助は一人その場に残される。埋めようのない亀裂を抱えながら、いざとなれば割り切って話し合うその姿に、虎之助はうつむいた。
(あいつはくそったれだが、いつでも冷静に行動している。それに比べて、俺はどうだ)
昨日、市松が見張りを任せろと申し出た時、虎之助が抱いたのは安堵だった。大海が半兵衛の元へ通う姿を見なくて済む。いささか無茶な申し出に頷いたのは、大海でも市松でもなく、自分のためだった。
もし、紅天狗が動き出したのだとすれば。虎之助は冷たくなった手を握り、大きな体を縮める。
つつけば崩壊する、隙だらけの石垣。紅天狗にとって、これほど越えやすい壁はない。穴を作ってしまったのは自分だと思えば、足が重くなかなか動かなかった。
(……市松が、全ての答えを持っている、か)
虎之助が反芻したのは、昨日、高虎と膝を突き合わせた際に言われた一言である。心に抱えた靄を晴らしたければ、市松に相談しろと高虎は断言したのだ。
今日の騒動についても、市松は何か知っているはずだ。虎之助は希望を市松に託し、重い足を一歩進めた。