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戦国ラブドール
第3章 佐吉という男
 
 武士はそう言い残して、書庫から立ち去っていく。しばらく二人は立ちすくんでいたが、今まで怯えて固まっていた小夜が口を開いた事で、張り詰めた空気は元へ戻った。

「お姉ちゃん……黄夫人って、なに?」

「え? ああ……三国志って話で出てた、孔明の妻だよ。赤髪で醜女で、『孔明の嫁取りは真似するな』なんて言われたんだけど――」

「なにそれ、悪口じゃない!」

「いや、でもすごく才女だったんだよ。発明品で孔明を手助けしたり、頭も良くて」

「でも、わざわざ醜女になれだなんて失礼だわ。あんな人がいるなんて、怖い……」

 小夜は唇を噛んでうつむくが、大海は唸る。確かに多少失礼かもしれないが、あの武士の言動からすれば、あれは誉め言葉のような気がしたのだ。

「お姉ちゃん、戻りましょ。わたし、早く男の人がいないところに行きたい」

 だが、小夜が袖を引けば、思考も引っ込む。本を棚に返すと、小夜に引っ張られて部屋から出ていった。

 それから、数刻も経たない頃。再び書庫に、先程の若い武士が現れる。今度は隣に共を連れ立ってやってきた彼は、中を覗き無人である事を確認すると溜め息を吐いた。
 
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