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戦国ラブドール
第21章 急転
「しかし、声で判別出来ませんか?」
「長い付き合いならともかく、あの妹は市松と片手で数える程しか会っていない。加えて、犯行は、近くの部屋の侍女達の耳には入っていなかった。つまりさして大きな声は上げていないはずだ。寝起き、しかも混乱した頭で、間違いに気が付けるだろうか」
孫六の話は、憶測でしかない。しかしそれは小夜の身になって考えれば、実に自然なものだった。
「乱暴されている時、相手の顔をまじまじ眺めるとは思えない。目を逸らし、身を縮め、出来うる全てを遮断して、嵐が過ぎるのを待つばかりだろう。そこにつけこみ、犯人を誤認させる事は難しくないと思う」
「確かに、あなたの言う通りですね。犯人が市松に罪をなすりつけようと思えば、それは可能です」
「今、小夜にもう一度犯人の特徴を訊ねるのは酷だ。その上、市松が犯人と思い込んでいる内は、真実も出て来ないだろう。まずは市松の無実を証明し、小夜の先入観を払うところから始めるべきと考える」
「なるほど……実に論理的です。そうですね、今はその案が、一番効率的でしょう。あなたは、市松の無実を晴らすためにはどうするべきだと思いますか?」