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戦国ラブドール
第21章 急転
紅天狗の件で単独行動を始めて以来、孫六は虎之助ですらろくに近付けずに動いていた。にも関わらず目ざとく事件を聞きつけ、大海に取り入っている。靄は苛立ちに変わり、孫六への憎悪を加速させた。
一方、襖の向こうの悪意に気付かないまま、孫六は安息の時間を過ごしていた。
「まったく、人が寝てると思って、好き勝手してくれたな」
眠りについた大海へ呟くと、孫六は手を握る。先程大海が静けさに負けて船を漕ぎ出すまで、この手は好き放題孫六を撫で回し、猫可愛がりしていた。普段なら不愉快極まりない行為だが、孫六は不思議と怒りは感じていなかった。
(どこもかしこも、柔らかい)
重ねてみれば、女の手が男といかに違うかがよく分かる。肌のきめ細かさ、骨の違いも、直に感じる。身を預ける大海は、孫六の全く知らない生き物だった。
その柔らかな手に触れられると、心臓を掴まれたような気分になる。感触を思い出せば、鼓動が高鳴った。
上から大海を見下ろすのは、背の低い孫六にはなかなか訪れない機会である。下から覗いても整った顔立ちではあるが、上から見ても『二喬』の呼び名に恥じない美しさであった。