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戦国ラブドール
第22章 束の間の夢も
行長の提案に、大海はしばらく悩む。襖を外すのは簡単だが、無理やり侵入して、また小夜が傷つかないとも限らない。だが大海が結論を出すより早く、虎之助が襖に手をかけた。
「ああ、面倒臭せぇ! 顔合わせて話しゃ、なんとかなるだろ!」
「え、ちょっと……ああっ!」
止める間もなく襖は外され、外と中を遮るものはなくなる。だが、部屋の中を見た全員が、その瞬間目を見開き絶句した。
綺麗に整頓された部屋の中央に敷かれた布団には、誰も寝ていない。部屋の中にいたはずの小夜は、姿を消していたのだ。
「……小夜?」
乱れたかいまきと共に置いてあったのは、赤い布。大海がそれを拾えば、そこには小夜が知るはずのない、漢詩が書かれていた。
「銅雀台の、賦……」
遠い過去、海を越えた大陸の話である。三国随一の美女であり、呉の王孫策とその軍師周瑜の妻である大喬と小喬に目をつけた曹操が、彼女達を求め詠んだとされる詩が、布に記されていた。
「小夜!!」
大海は、すぐに悟る。小夜はただ行方をくらましたのではなく、曹操を気取る何者かに、拐かされたのだと。