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戦国ラブドール
第26章 かわいそうなこどものおはなし
行長は大海の手を取ると、屋敷まで同行する。そして屋敷の前まで来ると、夜の静けさに包まれた長浜の城を見上げた。
「大海さん。紅天狗と私達武士は違います。奴らには欲と私心しかありませんが、秀吉様は世を、生きる全ての人間の未来を考えています」
「ああ、だからこそ長浜は栄えてるし、秀吉は慕われているんだろうね」
「しかし、ここが伏魔殿である事もまた事実です。秀吉様は、十のために一を切り捨てる覚悟をお持ちでもあります」
行長は夜に染まった城から、大海に視線を移す。大海の瞳は、今までの辛さや悲しみも跳ね退け、真っ直ぐに前を向いていた。
「あなたは、一を捨てられない優しい女性です。ここへ残れば、この先胸を痛める事が山ほどあるでしょう。父親と共に、堺へ行った方がいい」
「それは……けど」
「あなたは充分に、秀吉様の望む役目を果たしました。仲が良い、とは言いがたいですが、私達は大丈夫です。ですから、もう人形である必要はありません」
行長は屋敷の扉を開くと、大海の背中を押して中へ入れる。
「お休みなさい、また明日」
反論を許さず、行長は扉を閉める。大海は追いかける事も出来ず、結局部屋へと戻るしかなかった。