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戦国ラブドール
第26章 かわいそうなこどものおはなし
 
 小夜を思いやるなら、もう堺に行きたいとは言えない。小夜は、自分で立ち上がり生きる決意をしたのだ。大海が手を出せば、それは小夜への侮辱にも等しかった。

(あたしは……何のために立ち上がる? ここで、何を成す? いや、何をしたいんだ?)

 頭に浮かぶのは、一人の顔。だが、簡単には足を動かせない。

(ああ……人に好きだって言うのは、こんなに勇気のいる事だったんだ。皆当たり前のように言ってるような気がしてたけど……すごい事だったんだな)

 頭の中で渦を巻く、恥じらいや緊張、そして拒絶された時の恐怖。一歩も動いていないのに、大海は心臓が破裂しそうな気分になる。

(……やっぱり、やめようか。残ったふりをして、一人で能登に帰ろうか)

 現実逃避でごまかそうとしても、生来の正直さが卑怯を責め立て罪悪感を生む。引く事も進む事も出来ずにいると、背後から声が響いた。

「探しましたよ、大海」

「半兵衛殿!」

 大海の元へ現れたのは、半兵衛。無実が証明されたとはいえ、昨日は忙しかったようで、大海は顔を合わせる事が出来なかったのだ。元気そうな表情に、大海は安堵した。
 
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