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戦国ラブドール
第4章 子供の時間
 
 するとそこで不自然に、孫六の口が止まる。そして唐突にきびすを返し、一言だけ呟いて去っていった。

「疲れた、寝る」

「お、おい孫!」

 半端なまま帰ろうとする孫六に、虎之助も大海も慌てる。が、孫六は振り返りもせず、戻っていってしまった。

「……追った方がいいんじゃないのかい?」

 おずおずと、大海は虎之助に呼び掛ける。だが虎之助は首を横に振ると、長い溜め息を漏らした。

「――嫌な事、思い出させちまったかな」

「嫌な事?」

 独り言にも近い呟きに、大海は首を傾げる。すると虎之助は、ぽつりと語り出した。

「孫は、まだ子どもなのに苦労してるんだよ。親父さんが亡くなって、あの年で兄弟やお袋さんを支えて働いて……それを愚痴った事なんて一度もないが、辛い思いをしたのは確かだ。そうでなくとも、身投げなんて目の前で見たら狼狽えるだろうが」

「そういえば……母上、って叫ぶ声を聞いた気がする。もしかして……」

 孫六が大海を助けたのは、単なる正義感ではないのかもしれない。孫六から聞かない限りそれは想像に過ぎないが、大海は申し訳なさにうつむいた。
 
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