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アペリチーフをご馳走に。
第1章 アペリチーフをご馳走に。
「だから、気を付けなきゃ駄目だって言ったろ。…大丈夫か?」

「ん…」

新谷はその無事を確かめるようにぽんぽんと梨子の頭を撫でる。その流行遅れだと思っていた眼鏡の奥の目はもう別人のようにいつもの穏やかなもので、ひどく安心した梨子は何故か浮かんできた涙を拭いながら頷いた。

その日の電車内はそれ以上何が起こる訳でもなく、次のバスの中でも新谷は泣き顔を他人に見られるのも嫌だろうと学校に着くまで梨子を守るように立っていてくれた。


「──この時間だと、始業までまだ結構時間があるだろ。朝練ある部活のやつしか居ないもんな。梨子はいつもこの時間なのか?」

「そうです…一本遅らせると今度はホームルーム五分前とかになっちゃって、ギリギリ過ぎて怖いので…」

「はは、遠いとそういうの困るよな。──おいで」

「……」

学校に着くと、新谷は始業まで少し休むといいよと理科準備室に梨子を通してくれた。

音楽室や美術室などが集まった特別棟は校舎よりも更に人気が少なく、冷たい空気の中に独特な匂いだけが混ざっている。あまりに静か過ぎて、少し離れたグラウンドの運動部の掛け声までも微かに聞こえてくる。
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