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アペリチーフをご馳走に。
第1章 アペリチーフをご馳走に。
「二年のヤツらから具合悪いって聞いたけど大丈夫か?」

「はい。でもえっと…もしかしたら、今日は途中で上がらせて貰うかも…です」

話の内容はやはりそのことで、梨子は胸元でタオルを抱き締めたままぺこりと頭を下げた。

「ん、分かった」

新谷はやはりその頭を撫で付け、先程よりは少しトーンを落とした声で言葉を続けた。

「…今日は、朝から大変だったもんな。こっちにも疲れが出たんだろ。僕の方でも気にして見てるから、無理しない程度に流してこい。泳ぐの、好きだろ?」

「先生…。はい、ありがとうございます」

とんとん、と自身の胸──“心”を示し笑う新谷に、梨子は一瞬でも疑ってしまったことや自身の不純さを恥じもう一度頭を下げた。

『…そうだよね…水に入っちゃえば、どうせ見えないもん…。今日だけ我慢して、家に帰ったらもう一回ちゃんと探してみよう』

自分自身にそう言い聞かせて、皆と同じように新谷の傍らのベンチにそっとタオルを置く。

あとはまたいつもの、ノーマルな日常を何事もなく終えるだけ。

と、そう思った時──

「梨子」

「あっ…はい」

もう一度新谷に呼ばれ、慌てて不自然にならないような感じの仕草で胸元を隠して振り返った梨子は、

「ほんとに風邪?」

「…っ」

いつものように穏やかに笑っているのに隠しきれていない──

あの猛獣のような妖しい光を宿した瞳を自身に向ける新谷の、唐突な言葉に体を震わせた。

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