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紅蓮の月~ゆめや~
第1章 プロローグ
 そこで実幸ははたと当惑した。織田信長といえば戦国時代、つまり安土桃山時代に生きた人で、現代からいえば五百年近くも前のことになる。そんな大昔の着物がいくら古着屋とはいえ本当に残っているのだろうか。もしそれが仮に本物なら、時価幾ら―実幸など一高校生が予想もできないような高値がつくに違いない。どう考えても、こんな小さな町の古着屋にあるような代物ではない。
 とすれば、やはり、この小袖が織田信長の時代のものだというのは女主人の嘘、つまり偽物だということになる。
 しかし、女主人から見ても、実幸がただの女子高生であることは一目瞭然だ。たとえ上手く騙しおおせて偽物の小袖を売りつけても、そんな大金を支払えるはずもないことは判るだろう。なのに何故、そんな見え透いた嘘をつく―? しかも、この女主人は着物を売るのではなく、夢を売るのだと言った。
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