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紅蓮の月~ゆめや~
第9章 第三話 【流星】 プロローグ
 店の女主人は年の頃は三十代くらい、こんな片田舎の小さな町には似合わないほどの美人だったような気がする。たまに表に出てきた姿を見かけたが、いつも紫色の着物をきっちりと着こなし、艶(つや)やかな長い黒髪を後頭部で一つにまとめていた。
 美都と眼が合っても、うっすらと微笑むだけで話をしたことはなかった。それでも良い、あの頃を知っている人がまだこの町にいる―、美都はそう思うと矢も楯もたまらず店のガラス戸を開けていた。ガラスの引き戸を開けた時、美都の記憶の底からふいにぽっかりと店の名が浮かび上がった。
「ゆめや」
 唐突に思い出したこの店の名を呟いたその時、透き通った心地よい声が響いた。
「よくうちの店の名前を憶えていて下さったこと」
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