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紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 一
 兼家も今は位が低くとも、いずれはそれなりの官職に就き、廟堂で重きをなす高官になる可能性を大いに秘めているはずだ。その兼家からの求婚を受けたのは半年前のことになる。美耶子は「本朝三美人」と呼ばれ、都でも随一の美人と評判の美貌だ。兼家とはむろん逢ったこともなかったけれど、大方、その噂を聞きつけて文を寄越したに違いない。
 何しろ新しいもの、珍しいものが大好きな兼家である。今から思えば、「三美人」と誉れの高い娘に興味を抱き、美しい美術品を収集するように我が物にしたいという欲望の発露に他ならなかったのだろう。しかし、当時の美耶子は兼家のいささか大仰にも思える求愛の言葉の数々をまともに受け取っていた。
 美耶子の父倫寧(ともやす)は同じ藤原家とはいえ、支流の家系にすぎず、出世できても、せいぜいが地方国守になれれば良いというほどの下級貴族だ。
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