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紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 一
 それならば美耶子の方から文を書けば良さそうなものだけれど、生来勝ち気な性格が災いして、筆を持って文机に向かっても一向に進まないのだった。
 これでも当代有数の歌人と呼ばれている美耶子だ。その気になれば、恋の歌の一つや二つはすぐに詠めたが、到底詠む気にはなれなかった。
―嘘でも良いのでございます。お心にないことでも一向に差し支えございませぬ。殿のおいでがありませぬゆえ、淋しうてなりませぬ、毎日泣き暮らしております、涙で枕の乾く暇がありませぬとお書きなさいませ。されば、殿も可愛い女よと思し召して、すぐにおいでになられまする。
 乳母などは真顔で勧めるけれど、美耶子は心にもないことを書けない。
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