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紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 一
「庭の菖蒲(あやめ)が見事に咲いておるな。どうだ、変わりはないか」
兼家はせかせかとした足取りでやって来ると、女房たちが急いでしつらえた上座にどっかりと腰を下ろした。兼家の第一印象は育ちの良さを感じさせる、いかにも温厚な御曹司だ。何事にも動じない態度は高貴な公達らしく、泰然としている。
だが、心に何か疚しいことがあると、必ずと言って良いほど落ち着きを失う。ゆったりとした立ち居ふるまいが忙しない動作になる。殊に歩き方が不自然なほど速くなる。美耶子は兼家の歩き方をひとめ見て、やはり「町小路の女」の存在―兼家に新しい愛人ができたのは真実だったのだと悟った。
兼家はせかせかとした足取りでやって来ると、女房たちが急いでしつらえた上座にどっかりと腰を下ろした。兼家の第一印象は育ちの良さを感じさせる、いかにも温厚な御曹司だ。何事にも動じない態度は高貴な公達らしく、泰然としている。
だが、心に何か疚しいことがあると、必ずと言って良いほど落ち着きを失う。ゆったりとした立ち居ふるまいが忙しない動作になる。殊に歩き方が不自然なほど速くなる。美耶子は兼家の歩き方をひとめ見て、やはり「町小路の女」の存在―兼家に新しい愛人ができたのは真実だったのだと悟った。