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紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 一
 初夏の宵とて、蔀戸をすべて上げており、涼しい夜風が部屋の中まで吹き込んでくる。
 開け放した戸から庭の池の汀に群れ咲く濃紫(こむらさき)の花菖蒲がいかにも涼しげに見えた。
 風が吹く度に、菖蒲の花もかすかに揺れる。
 兼家はしばし、その心洗われるような光景を見つめている。美耶子は黙って兼家の言葉を待った。
 兼家の憎めないのは、開き直るということがないところだ。美耶子が町小路の女について既に情報を得ていることも薄々は察している様子で、しきりに美耶子の出方を窺っている。多くの女の間を渡り歩きながらも、各々の女のご機嫌取りにもまた労を惜しまない。 それもまた兼家が女性にもてる所以だろう。
 しばらく庭を見ていた兼家は、コホンと咳払いをした。いかにも、わざとらしい。
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