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紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月 一
 上辺だけは色白の整った目鼻立ち、いかにも信長が好むという大人しげな美人だが、中身は「お転婆姫」なのだ。嫁してまだひと月、今は本性も出てはいないが、いずれボロが出るに違いない。いくら取り繕おうが、所詮、地は暴露するものだ。父には申し訳ないけれど、帰蝶はそのように割り切っていた。
 美濃の父からは時折文が届き、良人となった信長との夫婦仲はどうかと訊ねてくる。が、夫婦仲がどうこうという前に、帰蝶が良人に逢ったのはひと月前の祝言の夜だけで、以来、一度たりとも話すどころか顔も見てはいないのだ。祝言の夜でさえ、信長はついに寝所に姿を見せなかった。以来一度として信長が帰蝶の許に来ることもなく、帰蝶が信長の寝所に伽に召されることもない。
 これはもう完全に嫌われているなと、流石の帰蝶も悟らざるを得ない。噂によれば、信長は吉乃(きつの)という家臣の娘に夢中なのだという。吉乃は出戻りだが、父道三の言う「信長好みの女」で、儚げな花のような風情の可憐な娘だそうだ。
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