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紅蓮の月~ゆめや~
第11章 第三話 【流星】 二 
 考え始めれば、不安や心細さは尽きない。多分、好むと好まざるに拘わらず、美耶子は生涯、その大きな愛欲の渦の中でもがき苦しみ続けるのだろう。
 兼家を独占したいと願いながらも、果たされることのない、けして報われることのない激しい愛の焔に身を焦がしながら。
 美耶子の脳裡にふと哀れな蜻蛉(かげろう)の話が浮かんだ。蜻蛉は燃え盛る焔の中に自ら飛び込んでゆくという。赤々と燃える紅蓮の焔の鮮やかさに魅せられて、自分から焔の中へと身を投ずるのだ。
 考えてみれば、今の美耶子は蜻蛉にも似ている。愛欲の焔に身を投ずれば、その身ごと焔に灼かれてしまうことが判っていながら、自ら焔の中へと入ってゆこうとしている。すべてを承知しながらも美耶子が我が身を止められないのは―。
 兼家を愛しているからだ。
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