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紅蓮の月~ゆめや~
第14章 最終話 【薄花桜】 一
が、幸いなことに、弥生になっての温かさで治助は何とか持ち直し、小康状態を得ている。そのことで、小文はどれだけ安堵したか知れたものではない。治助が病に倒れたのは、今から一年前の春のことである。
あの日もこの季節のように洛中の桜が盛りを迎えようとしており、都は薄桃色の霞(もや)に包まれたようになっていた。小文は治助と二人で近くの寺まで詣で、ついでに花見を済ませてきた。その帰途、往来で治助が突然胸を押さえて蹲った。それまで病知らずで健康そのものであった良人の突然の異変に、小文は狼狽(うろた)えた。小文の前で治助は大量の血を吐いて倒れた。
それがすべての始まりであった。以来、治助は床から離れらず、病床に伏す身となった。小文はすぐに町でも名医と名高い医者に診せた。治助は労咳を患っていた。小文は金銭を惜しまず、良人のために高価な薬を取り寄せた。高麗人参が効くと耳にすれば、早速薬種問屋に出かけた。
あの日もこの季節のように洛中の桜が盛りを迎えようとしており、都は薄桃色の霞(もや)に包まれたようになっていた。小文は治助と二人で近くの寺まで詣で、ついでに花見を済ませてきた。その帰途、往来で治助が突然胸を押さえて蹲った。それまで病知らずで健康そのものであった良人の突然の異変に、小文は狼狽(うろた)えた。小文の前で治助は大量の血を吐いて倒れた。
それがすべての始まりであった。以来、治助は床から離れらず、病床に伏す身となった。小文はすぐに町でも名医と名高い医者に診せた。治助は労咳を患っていた。小文は金銭を惜しまず、良人のために高価な薬を取り寄せた。高麗人参が効くと耳にすれば、早速薬種問屋に出かけた。