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紅蓮の月~ゆめや~
第6章 第二話【紅蓮の花】 一
義経は何も言わず立ち上がると、そのまま寝所を出ていった。両手をつかえて義経を見送りながら、凛子もまた暗澹たる気分になった。
―殿はまだ鎌倉殿を慕っておいでなのだ。
そは義経自身がけして口には出さずとも、紛れもない事実であった。
凛子は藤原秀衡の次男忠衡の乳母の娘に当たる。秀衡の三人の息子の中、長男の泰衡は義経とは対立的な立場にあり、秀衡亡き後、跡目を継いだのは泰衡であった。奥州で過ごした少年時代から、義経と忠衡は仲が好く実の兄弟のように行き来していた。そんな二人を泰衡は冷たい眼で遠くから眺めていたものだ。義経と親しかった忠衡の乳母子であった関係で、凛子もまた幼い時分より義経と顔見知りであった。義経より八歳下の凛子は義経の後を妹のようについて回ったものだ。小さな胸に芽生えたほのかな思慕が激しく燃え盛る恋の炎になるまでに時間は要さなかった。
―殿はまだ鎌倉殿を慕っておいでなのだ。
そは義経自身がけして口には出さずとも、紛れもない事実であった。
凛子は藤原秀衡の次男忠衡の乳母の娘に当たる。秀衡の三人の息子の中、長男の泰衡は義経とは対立的な立場にあり、秀衡亡き後、跡目を継いだのは泰衡であった。奥州で過ごした少年時代から、義経と忠衡は仲が好く実の兄弟のように行き来していた。そんな二人を泰衡は冷たい眼で遠くから眺めていたものだ。義経と親しかった忠衡の乳母子であった関係で、凛子もまた幼い時分より義経と顔見知りであった。義経より八歳下の凛子は義経の後を妹のようについて回ったものだ。小さな胸に芽生えたほのかな思慕が激しく燃え盛る恋の炎になるまでに時間は要さなかった。