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紅蓮の月~ゆめや~
第6章 第二話【紅蓮の花】 一
義経が鎌倉に発つ間際、想いを打ち明けた凛子に義経は「待っていてくれ」と言った。そのたった一言を大切な宝物のように抱きしめて、凛子は義経を待ち続けたのだ。一体、いつ帰るかも判らぬ恋しい男を待った。
果たして、義経は兄に疎まれ、追放されるるという最悪の形でこの平泉に戻ってきた。帰ってきて哀しい再会を果たした後、凛子は義経の側室となった。義経の現況を思えば、けして素直に歓べる帰郷ではなかったけれど、漸く幼い頃の想いが叶って愛しい男と結ばれたのだ。ささやかな幸せの中に凛子はいた。たとえ義経の身をいかなる運命が見舞おうと、少なくともたった今、この一瞬だけは凛子は義経の傍にいられる―、それだけで凛子は待ち続けた長い時間も報われるような気がした。
が、なにゆえ、義経がこの期に及んでも頼朝を信じようとするのか、凛子には判らない。
あれほどの軍功を立てた義弟を殺そうとさえする冷酷な兄、数々の理不尽な仕打ちを受けてまで、何故兄を想うのか―。恐らくは、義経の心の奥にある深い闇に因があるに違いないと凛子は考えている。
果たして、義経は兄に疎まれ、追放されるるという最悪の形でこの平泉に戻ってきた。帰ってきて哀しい再会を果たした後、凛子は義経の側室となった。義経の現況を思えば、けして素直に歓べる帰郷ではなかったけれど、漸く幼い頃の想いが叶って愛しい男と結ばれたのだ。ささやかな幸せの中に凛子はいた。たとえ義経の身をいかなる運命が見舞おうと、少なくともたった今、この一瞬だけは凛子は義経の傍にいられる―、それだけで凛子は待ち続けた長い時間も報われるような気がした。
が、なにゆえ、義経がこの期に及んでも頼朝を信じようとするのか、凛子には判らない。
あれほどの軍功を立てた義弟を殺そうとさえする冷酷な兄、数々の理不尽な仕打ちを受けてまで、何故兄を想うのか―。恐らくは、義経の心の奥にある深い闇に因があるに違いないと凛子は考えている。