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紅蓮の月~ゆめや~
第6章 第二話【紅蓮の花】 一
 義経が狂ったように夜毎凛子の身体を求めてくるのも、多分、頼朝への満たされぬ想いがなせるもの。兄に振り向いて貰えぬ哀しさや淋しさは余計に義経の心を惑乱させ、兄への思慕をかきたてる。
 最近の義経は先刻のように突如として凛子の部屋を訪れたかと思えば、かつてない性急さで凛子を抱いた。だが、これほどまでに恋しい男の腕の中にいながら、凛子の心の内は哀しみと言いようもない寂寥感で満ちていた。義経の腕の温もりを死ぬほど愛おしいものに思いながらも、男の心がけして満たされてはいないことを他ならぬ凛子自身がいちばんよく知っている。
 でも、いかにももののふらしい逞しい胸に頬を寄せる時、聞こえてくるのは確かな生命の音であり、何より義経が生きていることを示す鼓動だ。
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