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紅蓮の月~ゆめや~
第6章 第二話【紅蓮の花】 一
「忠衡様、このように濡れてしまわれて。どうか中にお入りになって下さいませ」
 凛子が言うと、忠衡は首を振った。
「俺のことは良い。凛子、気をつけろ。泰衡の兄上の周辺が今朝方からかなり騒がしい。伽羅御所(きゃらのごしょ)(藤原氏当主の館)を武装した家臣どもが大勢出たり入ったりしている」
 いつもは屈託ない笑顔を見せる忠衡の面に笑みはなかった。
「このことを九郎殿にも伝えてくれ。最早一刻の猶予もならぬ。早々にこの館を立ち退かれるが良いとな」
 ついに来るべきときが来たのだ。凛子はまるで背筋に氷塊を入れられたように、身体がスウと冷えてゆくのを感じた。
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