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ブルジョアの愛人
第12章 初夏の蕾
「ねーねーおねえちゃん」
リビングを横切ったとき、翔太が駆けてきて真緒のTシャツの裾を引っ張った。
「ぼくもいっしょにはいりたい」
「はあ? ダメに決まってるでしょ。もう一年生なんだからひとりで入りなさいよ」
「やだー。ぼくひとりで入るのこわいよ」
ぐずる翔太と目線を合わせて話す真緒は、なるべく落ち着いて話そうとはしているが、少しばかり苛立ちを隠せなくなってきたようだ。眉間に皺が寄っている。
優々がたしなめようとすると、絵里加がキッチンからひょいと身を乗り出した。
「いいじゃない、一緒に入ってあげれば。お母さん、今手が放せないし」
「ねえお母さん、私も優々ちゃんも五年生だよ? いくらちっちゃい弟っていったって男の子と一緒にお風呂入るのは嫌なの」
真緒の歯軋りが聞こえてくるようだった。翔太のことが嫌いなわけではなく、優々と二人きりになりたいだけなのだ。しかし翔太は傷ついたような顔をしている。優々は真緒の肩に触れた。
「私は全然いいよ。翔太くんともお話したいし」
優々もあまり本意ではないが、入浴後の時間だってあるのだ。二人きりでお風呂に入れないのは残念だが、幼い彼の望みを無下にすることもないだろう。
真緒は渋々といった様子で頷いた。