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ブルジョアの愛人
第16章 危険な三分割
「なら、この前俺に北沢さんのことが好きだろって泣きながら詰め寄ったのはどうして」
樹里は唇を噛んで俯く。もっと気まずそうな顔をしろ、と思った。
「わざわざ俺に落とし物を届けたのはどうして」
小さい肩が小刻みに震え始めた。
「大した用事もないのに何度も呼び出すのはどうして」
「どうだっていいじゃん!」
パイプ椅子を蹴り上げて立ち上がった。キイと椅子が悲鳴を上げる。ついに癇癪を起こしたか。頬は濡れていない。きっと涙を流さずに泣いているのだろう。
「何が言いたいの!? はっきり言えよ! こっちが言いたいこと言えないの分かってて追い詰めるとかマジサイテー!」
キンキンと耳に響く怒鳴り声は後の沈黙を重くした。顔を真っ赤にし、肩で息をする樹里は辛そうだった。これでもまだ三分の一も吐き出せていないのだろう。
奇妙な物体を見るような大塚の視線に耐えきれなくなったのか、樹里は床に転がるパイプ椅子を元に戻し、少し迷ってから座った。
「ちょっとは落ち着いた?」
樹里の息が整うのを待ってから訊くと、素直にこくりと頷いた。