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ブルジョアの愛人
第17章 午前一時のダークスーツ
だが、今日彼女がカーディガンのポケットにわざわざ携帯を入れてきた理由は分かっているつもりだ。もちろん浩晃も覚悟を決めてきた。
逢って決着をつけたかったのだろう。浩晃は、そういう誠実なところにも惹かれたのだが。
もう莉菜の身体に触れることはできないのかと思うと、寂しいし、辛い。でも別れを決意した莉菜はもっと辛かったのだ。
「俺、離婚するんだよ」
莉菜はびっくりして浩晃を見た。重い空気に耐えかねて声を出した、というような口調だが、中身はそんな軽いものではない。
「莉菜のせいじゃないよ。不倫してたのは知ってたみたいだけど。もともと、樹里がいなかったらとっくの昔に別れてるぐらい冷え切ってたから」
嘘だ、と莉菜は思った。2組では莉菜と浩晃の関係が噂になっている、と優々と真緒が教えてくれた。そのせいで樹里が無視されていることも。
「勘違いしないでね。理由は色々あるから、不倫のこともちょっとは関係あるかもしれないけどそれが一番の原因じゃないよ。莉菜は何も悪くない」
「悪くないわけないよ」
聞いていられなくなって、浩晃の言葉を遮った。
「浩晃さんが結婚して子どもがいることも分かっててセックスしたのに、悪くないわけないじゃん」
莉菜は繰り返す。偽善を責めているわけではないのに、あけすけな優しさを指摘されたような気がして痛かった。