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ブルジョアの愛人
第20章 どこへも行かないで
寝惚け眼で見た安物の壁掛け時計は、綺麗な「L」を描いている。十二時間近く眠ったのだ。泣きながら浩晃と抱き合っていたときは目が冴えていたのだが。
それでもまだ惰眠を貪りたい気分だった。セックスのあとのようにひどく身体がだるい。
だが今二度寝をしたら布団から出られなくなるような気がしたので、この時期には厚い布団をはねのけた。
祖父母はとっくに起きていたらしく、莉菜がリビングを横切るとなぜかばつの悪そうな顔をした。
莉菜の悪口でも言っていたのかと思ったが、そうではないらしい。祖母が昨夜の婦人警官のような目で莉菜を睨んだ。
「お腹空いてないか」
祖父が新聞から顔を上げ、莉菜の腫れぼったい顔を見た。莉菜は黙って首を横に振る。
「朝から何も食べてないだろ。冷蔵庫に貰い物の苺があるから、食べられそうだったら食べておきなさい」
祖父はまだ何か言いたそうだったが、こくりと頷いてリビングを出る。二人の視線が痛かった。