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ブルジョアの愛人
第22章 おとなツインテール
懐かしいコーヒーショップはまだあった。小学生になってからはほとんど来なかったが、幼稚園に通っていた頃は母親同士の付き合いでよく連れて来られた。
コーヒーショップといっても、スターバックスなどのチェーン店ではない。無愛想な初老の女性が豆を挽き――噂ではインスタントコーヒーだが――、適当にアップルパイなどを焼いて一人で切り盛りしている。
店内の装飾品といえば、天井から吊るされた大きな飛行機の模型、壁のペナント、花の鉢植えぐらい。
夏は冷房がよく効いているので、家でエアコンをつける代わりにここへ来て涼んでいた主婦も少なくなかったようだ。
三月の半ばの店内はひどく広く見えた。客は誰ひとりいない。樹里は窓際の席に座り、ホットコーヒーを注文した。
大塚はぴったり三十分後にやって来た。若いくせに一丁前だと保護者に陰でからかわれていた黒いイプサムに乗って。
「ごめんね」
鈴の音とその声は見事に重なった。
「センセに逢えなかった年月に比べたら、三十分なんて早いものですよ」
茶化すと、大塚は顔を赤らめた。彼は以前から、若い女の子にからかわれてこんなうぶな反応を見せる男性だっただろうか。