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ブルジョアの愛人
第23章 幸せは彼へのお礼
だがそんな幸せな日々が訪れる前に、祖母が亡くなった。莉菜が高校一年生のときだった。
病院嫌いが災いし、健康診断で異常が見つかったときには遅かった。祖母の身体は、ほとんど癌に冒されていたのだ。
医師との相談などは、祖母の妹が行った。莉菜もそれで良かったと思う。本人の意向で投薬治療はしないこととなり、祖母は薬臭い病院でただそのときを待ち続けた。
いつしか莉菜は、祖母を恨めなくなっていた。
喪主はやはり祖母の妹が務めた。今度は祖父のときほど肩身の狭い思いをすることはなかったが、あんな孫と暮らして、おばあさんが可哀想、という参列者の胸のうちは手に取るように分かった。
これからどうしようか迷っていたところで、祖母の妹に、うちに来るよう言われた。正直嬉しかった。自分は親戚中の嫌われ者だと思っていたからだ。
いや実際はそうだったのかもしれない。祖母の妹も体裁を取り繕うようなことでの誘いだったのだろう。それでも嬉しかった。
葬式を終え、三人で住んだ家を引き払い、祖母の妹宅への引っ越しも無事終えた夜、封筒を渡された。
「自分の部屋で読みなさい」
独身の大叔母は早々とひとりきりの寝室へ消えた。あまり読む気になれなかったが他にやることもないので、布団に入って開けてみた。
入っていたのは便箋四枚と、便箋と同じ枚数の紙幣。福沢諭吉だった。