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ブルジョアの愛人
第3章 二人の少女
永遠に教室に着かなければいい。
呪文のように心の中で唱えながらゆっくり歩いていても、「5年2組」と書かれた札が扉に付いている教室の前まで来てしまった。
莉菜は水色のランドセルの肩紐を左手でぐっと握り、扉が開け放たれた教室へ入った。
「お…おはよ…」
勇気を振り絞ってクラスメイトに声を掛けると、教室は一瞬しんと静まり返り、冷たい視線が莉菜に向けられた。凍りついた空気が莉菜の背中まで冷やしていくようだった。
すると、教室はまた先程のざわめきを取り戻す。返事をする児童は誰一人いなかった。莉菜は胃がキリキリと痛むのを感じながら、自分の机にランドセルを下ろした。
莉菜のすぐ後ろの席では、樹里のグループが甲高い声で楽しそうにおしゃべりをしている。
「暗すぎ、キモ」
樹里の下っぱの声だった。
それに続き、クスクスと陰湿な笑い声と、ちょっと、やめなよ、と嬉しそうな樹里の声。莉菜は机の上にそっと置いたこぶしを強く握りしめた。
莉菜の胸は悔しさで一杯になる。酷い。浩晃さんの娘さんなのに、何でこんなに優しくないの?
泣いたら負けだ。必死に自分に言い聞かせながらも、ランドセルの中の物を全て机に入れる前にトイレに駆け込んでしまった。