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ブルジョアの愛人
第1章 キャンディキャンディ

『着いたよ。おいで。』

まだ件数の少ない受信ボックスに追加されたメールは、他のメールと同じように実に淡白な文面だった。皆送り主は同じで、受信した日時はどれも土曜日の夜中である。

莉菜は嬉しそうに顔をほころばせて返事を打とうとするが、表情とは裏腹に細い指の動きはぎこちない。見えない糸で操られているかのようだ。

『今行くね』

彼からのメールと同じく淡白だが、句点すら使わない文面が莉菜の踊る胸の内を伝えていた。

頬は緩む。だが、ばれやしないかと心は緊張する。

さっきシャワーを浴びたばかりだというのに、莉菜のパジャマを着た背中はじっとりと汗ばんでいた。

メールを送信する前に、急いで薄いパジャマを脱ぎ、ハンガーから外したワンピースを頭からを被る。まだ外では一度も着たことのない服だ。恋人とのデートに着ていくのが待ち遠しくて、店頭で買った日から必ず一日に一回は部屋で着ている。

いつも汚してはいけないからとすぐに脱いでハンガーに掛けるのだが、ワンピースを着た時の動きにくさや生地の感触が莉菜に束の間の幸福を感じさせた。
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