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ブルジョアの愛人
第4章 大好きな先生
莉菜は、怪訝そうに樹里を見ている。無理もない。樹里はクラブの時間が始まったにも関わらず、一輪車に乗らずにじっと何かを見つめているからだ。
その"何か"が何なのか、莉菜よりも先に真緒が気付いていた。
――大塚駿太。
真緒も莉菜と同様、この教師のことを良く思っていなかった。
今日はナイキの黒いジャージ上下というまだマシな格好だが、ひどい時など上はグレーのスウェットに下は黒いウインドブレーカーという貧乏学生の部屋着のような出で立ちで登校して来た日もある。本人は全く気付いていないようだが、大塚は「若いしそこそこイケメンだけどダサイ先生」のレッテルを貼られつつあった。大体は女子児童から見たイメージだが。
「青山さん、練習しないの?」
鈴を転がしたような真緒の声で我に返った樹里は、一瞬焦ったような表情を見せたものの、やはりすぐにいつものラスボスの顔に戻った。
「…今日はちょっと足が痛くて」
樹里は真顔で無愛想に返事をする。だが、真緒を睨みつけながらも視線は横に泳いでいる。
「大丈夫? 保健室で休もうか?」
背の低い樹里に目線を合わせるように、真緒は少し膝を曲げて樹里の顔を覗き込んだ。幼い子どもにするような真緒の仕草に、樹里は少しムッとしたようだ。整えた眉がつり上がる。
「ありがと。でも大丈夫。私のことなんかより北沢さん、自分の練習したら? まだ乗れないでしょう?」
今度は真緒の頬がピクリと動いた。能面のように張りつけた笑顔で、表情筋が疲れたわけではないだろう。