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ブルジョアの愛人
第1章 キャンディキャンディ
胸を撫で下ろし、顔を上げると、恋人の愛車がすぐ目の前にあった。待ちに待った週末のデートだ。
「こんばんは。お待たせ」
開いている窓から運転席で文庫本を開く男に声を掛けると、その男はさも今気づいたかのように莉菜を見る。先程からちらちらと二階や玄関を気にしていたくせに。
「ああ、こんばんは」
真っ黒い短髪にうりざね顔。美男ではないが、切れ長の細い目や涙ぼくろ、薄い唇に人の良さが滲み出ている。
日本人らしい顔立ちで、莉菜は優しそうな彼の顔が大好きだった。もちろん、好きなのは顔だけではないが。
「どうぞ、乗って」
助手席に乗り込むと、柔らかいシートが莉菜の幼い背中や尻、太ももの裏を包んだ。この匂い、この感触、この空間。週に一度、褒美のように与えられる恋人との時間だ。
莉菜は深呼吸をした。
大好きな彼の匂いを深く吸い込んで幸せを噛み締めるが、クラスメイトの樹里と同じ匂いなのが少し辛い。