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ブルジョアの愛人
第5章 恋火にマッチ
「どうしたの」
後ろを気にする莉菜に、樹里は訝しむでもなく、むしろ軽薄ともとれる口調で訊ねた。
「何でもない」
首を横に振ったが、莉菜の胸にはやはり何かざわめきが残る。樹里と莉菜が1組の教室の前を通った直後、真緒が顔を真っ青にしてトイレに駆け込んで行ったのだ。
「北沢さん、嫉妬しちゃったのかなぁ」
莉菜はハッとして樹里の顔を見た。樹里はニヤニヤ笑っている。
「北沢さんのこと気になるんでしょ? でも約束したよね。莉菜ちゃんはもう北沢さんに近づいちゃダメだよ」
莉菜はこくんと頷く。まるで低学年みたいな言い分だが、今の莉菜にはこれで充分なのだ。樹里が莉菜を下僕にするには。
「北沢さんは莉菜ちゃんの悪口言いふらすようなクズだからね」
「でも、真緒ちゃんは…」
「真緒ちゃん? やだ、まだ北沢さんのことそんなふうに呼んでるの? 樹里そんな子と友達なのかぁ」
わざとらしい溜め息に、莉菜の胸は大きく震えた。
樹里と仲良くなってからは、下っ端たちはもちろん、クラスの皆が話しかけてくれるようになった。体育の時間に一人ぼっちにされることもなく樹里がペアを組んでくれる。もう少し前までの自分に戻りたくはなかった。
「ごめんね、樹里さん」
莉菜は機嫌を取るように、上目遣いに樹里を見た。樹里は鼻を鳴らし、両手を広げて莉菜に抱きついた。
「嘘だよ。莉菜ちゃんだーい好きっ」