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ブルジョアの愛人
第5章 恋火にマッチ

樹里が職員室に用事があるというので先に教室へ戻ると、ただならぬ空気を纏った下っ端たちが莉菜を取り囲んだ。

「おいてめぇふざけんじゃねーぞ」

顔を真っ赤にして莉菜を睨むのは、下っ端の中では一番高い地位に属する大場沙良だ。何があったのか、沙良を取り囲む三人の下っ端たちも沙良と同じような表情をしている。

「ちょっと樹里さんが優しくしたからってチョーシこくなよ」

震える手で莉菜のブラウスの襟元を掴んだのは、高校生の彼氏がいるという村井愛海(あみ)。鼻は低いし目は離れぎみだしSNS依存症だし、この子のどこがいいんだろうと莉菜は思う。

「ちょっと前までボッチだったくせによぉ。マジないわ」

いつもこっそりペディキュアをつけてきている子に言われた。名前、なんだっけ。莉菜はこのショートカットの子の名前をいつも忘れてしまう。

「何のこと言ってるのか、私…」

冷や汗が頬を撫でる。火に油を注ぐと分かっていても、全く心当たりのない莉菜はそう訊くしかなかった。そして案の定、騒ぎを聞きつけてギャラリーが集まる教室に甲高い怒号が飛び交った。

「とぼけてんじゃねぇよブス!」

「何やってもいいと思ってんのかよ! 窓から落とすぞてめぇ!」

「ブスのくせにチクリとかふざけんな!」

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