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ブルジョアの愛人
第7章 花はここに

「行こう」

浩晃は莉菜の手を引く。だが莉菜は首を横に振った。

「どうして」

「だって…」

莉菜はまたひとつしゃくり上げた。小さな手をぎゅっと握ると、細い指も握り返してくる。

「浩晃さんに迷惑かけちゃう…」

浩晃も思わず唇を噛んだ。その「迷惑」が何を意味するのか、一瞬で見当がついた。莉菜のことだから、きっとインターネットで色々調べたのだろう。

この関係がどんな法で裁かれるのかを。

身体を重ねたことが明るみに出たならば、浩晃は確実に強姦罪で捕まる。莉菜が十三歳以上だったなら淫行条令に引っ掛かるだけだが、もしそうだとしても不倫という関係上無罪は厳しいだろう。不倫なのに無罪判決が下されたケースもあるそうだが、普通は無理だ。

愛するが故の悩みだ。彼女の配慮を無下にはできない。しかし、もっと彼女と愛し合いたいと思うのも事実。そして、浩晃に離婚に踏み切る覚悟がないというのも事実。

現実とは残酷である。そう感じるのも、人間が夢を見ることでしか不幸から目を背けられないからかもしれない。
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