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自由という欠落
第6章 もつれていく
「すごいすごい、きれーい!」
「有り難う。でも皆、まだ完成じゃないからね。山本さんは励みになる感想をくれたけど、繰り返しのBパート、少し不協和音だったと思う。サビへの盛り上がりは私も力みすぎちゃって、うっかりしがちなところだし、これからも練習し甲斐はあるよ」
はい、はい、と、若年者らが神妙な姿勢で頷くと、彼女らより年長と見られる面々も、間延びした感じの返事を続けた。
ややあって、更に二人の学生らが部室に見えた。少女達は顔見知りではないらしく、心陽と同様、別々の部員らに呼ばれて訪ねてきたようだ。
有志の学祭メンバーは、いきなり譜面を渡されない。当日はステージで手一杯になろう部員らに代わって、カフェ運営の補助が主な仕事になるようだ。
森島と名乗る部長の三年生の采配で、部員達は折り畳み椅子をコの字型に並べていった。心陽らも手伝って、あっという間に、会議に向いた空間が出来上がる。心陽は香菜の隣に座って、改めて、すれ違った覚えくらいはある同級生らと二言三言を交わす。
「あの余ってる椅子は?」
「あと三人くらい増えるんだって。心陽も誰か連れてきてくれて良いよ。っていうか、悪いけど連れてきてくれたら助かる」
「……私、友達いないし」
「そこで謙遜するぅ?」
「そう言えば、心陽さんって、あの山本心陽さんだよね?ウチの学年じゃメッチャ目立ってるんじゃん。たまにすごい綺麗な子と一緒にいない?あの人達とか、声かけられない?」
「あー……何となく、分かった……うんうん」
もっとも、納得したところで初対面の同級生らの要望に応じることは難しい。彼女がどこで心陽を見かけていたかは知らないが、のはなにせよまひるにせよ、この時期はいよいよ講義の時間以外は部活動にこもりきりだからこそ、心陽はこうして暇を潰しているのである。
所用はある。香菜は中等部からの大好きな友達だが、心陽は、こんなところで慈善活動にかまけている場合ではない。
だのに、この場しのぎで構わない。この場しのぎで構わないから、優先事項を捏造して、本来やるべきことから目を背けていたいのだ。もとより心陽の管轄でもないがゆえ、余計に、何かで気を紛らわせているべきだ。
空席が埋まったのは、七限が終わってまもなくの頃だ。メニューに含むスイーツについて、議論している時だった。