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自由という欠落
第6章 もつれていく
「やることなくなっちゃったね」
「そうですね、……」
舞台は完成している。
部分稽古とは名ばかりで、のはな達の舞台は、あとは披露を待つのみだ。
ゆきの手招きに従って、のはなは彼女の隣に座った。階段に腰を下ろすなど、何年振りか。
「はい」
「有り難うございます」
「ぬるくなっててごめんね。どうせ皆、もうサボってるだろうし」
ドリンクタイプのヨーグルトは、甘かった。身体中に染み渡る。
甘くて優しい。
人は、何故、いつまでも甘く優しい真綿にくるまれて、少女のままでいられないのか。のはなが得をしたことなど、大人になりたい、思春期の少女らの多くが一度は抱えたろうもどかしさを、味わわなくて済んだことくらいだ。いつまでも子供でいたかったのだから。
「先輩」
「ん?」
「選んで下さって、有り難うございます。楽しかったです。半年間」
「じゃあ、入部してくれない?」
「したいです。でも、……」
「清水さんと一緒じゃなきゃいや?お似合いだもんね」
「…………」
「でも、良いお友達止まり。それ以上でも以下でもない。却って羨ましいよ。親友になれそうなくらい仲良しの子と、あんなに一緒にいられるなんて」
「ゆき先輩だって」
「うーん、どうだろ」
つと、ゴールデンウィークが脳裏を掠めた。交際して五年だという、女と女。羨ましいほど睦まやかだった。羨ましいほど、互いを思い遣っていた。恋愛とは本来ああいったものなのか、それとも彼女らが特別なのか。それから、ゆきの知らない少女の顔が思い浮かぶ。学部は別の、それでもよく一緒に過ごしている同級生。…………
西原との婚約を破棄すれば、丹羽は、どのくらいの損傷を被るのか。