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自由という欠落
第6章 もつれていく

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 清らかな瞼を閉じた少女の、レースやフリルでめかし込んだ肉体が、パイプ椅子に横たわっている。のはなの優美な風采は、粗末な仮設寝台さえ、彼女が本来起伏しているあの寝具を重ねさせる。


 居残っている学生らの活気が、ここかしこで交差していた。

 演劇部員らは、校舎のホールに集っていた。

 ガラス張りの扉の向こうは、既に硬質な夜陰が降りていた。天井に並んだ電球が蜂蜜色の光を放散して、艶を刷いたフローリングに淡い影を重ねていた。





 『オセロー』の舞台のラストシーン、まひるは劇中の恋人の枕辺に跪いていた。


 清らかで安らかな少女の寝顔。枕もない寝台は、我に返れば微睡みも押し寄せ難ろう寝心地にせよ、薄く化粧したのはなの顔は、不思議といつまでも眺めていたくなるものがある。
 恋人同士の穏やかな時。半年間、のはなとはパートナー同士の役を演じてきたにも関わらず、まひるには、未だ法に保証された人間同士の結束は、精彩を欠いている。恋人同士。この方が、仮初めの愛に現実味を見出すには都合良かった。


「…──『俺はプロメテウスの火の在り処を知らない。一度消してしまえば、お前に宿る命の火を、二度と燃え上がらせられないのだ。この薔薇は一度摘んでしまえば、二度と水を吸い上げない。お前はこんなに美しいのにな……、朽ちるだけだ、などと』」


 薔薇ではない。のはなには、そこまでの強さも、主張した存在感もない。


 かすみ草。ゼラニウム。コチョウラン。スイートピー。…………

 ただそこにいて、ささやかな幸せをもたらす存在。仄かなぬくもりを伝える存在。


 それがまひるにとってののはなだ。
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