この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
自由という欠落
第6章 もつれていく
半時間、一言、と、デズデモーナの嘆願が、命乞いの程度を低める。
のはなの手首を捕まえて、まひるは彼女を組み敷いた。
いかなる聖女も、生命に危険が及んだ時、屠殺場に引きずられた動物のごとく、なりふり構わずもがくのか。頼りなげな腕はまひるを振りきらんばかりに抗って、フリルから伸びた脚は宙を蹴る。
誰かのものになるくらいなら。
自分の許を去っていくなら。
もみ合う二人つの肉体、精神は、互いに求めながら拒絶していた。求め合うあまりに拒絶していた。
愛している、今となっては、それすら口先だけの夢にも思える。
「『もうたくさんだ!』」
「『うっっ……』」
細い首は、回した指先がとろけてしまわんばかりに柔らかだった。
なめらかな皮膚が、まひるの指の腹を苛む。その喉元は、甘やかな肉が、血の通ったぬくもりが、澄んだ声を生み出す器官が、あまねく魅惑が集結していた。
「『旦那様!旦那様!もしもし、旦那様!』」
エミリアが戻ってくると、令閨は絞殺されていた。
デズデモーナは僅かな意識にしがみついて、現世の去り際に言葉を残す。自らの手でこの世を去ります。