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自由という欠落
第6章 もつれていく
駅のホームに出ても、電車の気配はなかった。
別方向へ帰る二人は、同じベンチに腰を下ろす。
「いよいよ、明日か」
「のはなとこうして帰りが遅くなるのも、最後だね」
「学校にいた時間、すごく長かったものね。まだ三年と少しあるなんて……、これからどうしようかしら」
おそらく他意ないのはなの声が期待を込めた年月は、甚だ長い。
さっきまで悲劇のヒロインを演じていたのはなは、活き活きと微笑んでいる。まひるの隣で、明日、明後日、その先と、何かしらの期待をいだいている。
まひるは、本当に、のはなが卒業を迎えるまで彼女と一緒にいるのか。平坦で、紐解くには残酷すぎる来し方に向き合っている暇もなかったこの半年間のような日々が、あと三年数ヶ月も続くと思うと、まるで真綿の道を歩いているように思う。永遠にも似た少女の時間。永遠ほど呆気なく途切れるくせに。
「やっぱり、勉強?のはなって、将来やっぱり丹羽さんの仕事手伝うの?だとしても厳しそう、社長、何だかんだで教育パパとか似合う感じするもん」
「ふふ、お父さんが?」
「のはなしっかりしてるのに、それでも厳しいこと言うし」
「そうかもね。年頃にしては……、甘やかされては、いないかも」
時折、まひるはのはなに触れることが怖くなる。
無邪気で柔和で、もちろん不自由なく暮らしてきた令嬢は、そのくせ何者にも侵入を許していない部分を持ち合わせている。のはなが刹那見せる表情に、沈黙に、まひるは得体の知れない不安を垣間見ていた。
学生というステイタスを脱して、親許を離れられる年端になった時、のはなはどこを目指すのか。ただのはなの学生生活の保険に据えられたまひるが、彼女の行く先にまで目を向けるのもおかしいにせよ、友人として、心陽や他の同級生らとは逸脱した何かが、のはなを扞禦しているようだ。その扞禦が、まひるにのはなを気にさせる。