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自由という欠落
第6章 もつれていく
「のはなが甘やかされていないなんて、やだな」
「え?」
「我慢は、いけないと思う。女の子は、我慢なんて……、のはなみたく可愛い子は、甘やかされていて欲しい」
「あ、え、……ありがと、まひるってはるちゃんに似た?お世辞上手い」
「…………」
「…………」
世辞ではない。そのくせのはなの謙遜を打ち消す言葉を持ち合わせない。
のはなのように、優美に笑って柔和に日々をやり過ごしていた少女がいた。彼女は、やはりのはなのように、目先の明るさにしがみついていた。甘く優しい言葉だけを選りすぐって、まひるには何一つ見せないで、ある日突然、砂利を積み上げただけのようだった踏み台から転落した。
暮橋紬。
暮橋先輩。
まひるは、彼女をそう呼んでいた。未だ記憶の彼方に呼びかければ、天にも昇る心地になろう。同時に、封じていた名前を呼べば、ひりりとした疼痛が胸の奥を締めつける。
誰とも離れたくない。不変のもので、壊れないもので、満たしたい。願うことは容易いのに、望むことは難しい。
悩みごと、苦しんでいることがあれば、話して。
たったそれだけの想いを伝えられない。愛情であれ同情であれ、仮にまひるがのはなの柔らかな部分に触れられたとする。それだけのことが出来たとすれば、紬を繋ぎとめられていたはずだ。