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自由という欠落
第6章 もつれていく
「意気ぴったりだよね、二人」
舞台袖からデズデモーナの独白を眺めていると、斜め後方でしよりが目を細めていた。
脆弱な光のように控えめな、ステージには漏れない程度のささめきだった。それでも、しよりの少し掠れた低い声は凛としていて、視線だけ移したまひるは頰が熱くなる。イアーゴーの化粧をして衣装を身につけた彼女は、役柄こそ軍人にせよ、いわゆる王子様である。のはならの好む歌劇団に熱を上げる女子達であれば、この佇まいだけで骨抜きになるか。
「有り難うございます」
「ゆきが配役を独断した時は、ビックリしたけど。オセローは清水さんに頼んで良かった」
「……なんかすみません」
「ううん、私みたいに男らしいヤツばかりが一番手演っても、皆飽きちゃうから」
「…………」
「清水さんみたく、綺麗な男役っていうのかな……。こういうのもありなんだな、って。それに客席、狙った通りウケてるし」
「しより先輩やのはなのお陰です」
事実、まひるはおりふし、客席からとろけるような溜め息を感じていた。のはなと観に行った舞台でも、そうした甘いものがあちらこちらで湧き上がっていたのを思い出す。おそらく同じシーンに出ることの多いのはなやしよりに、それらは向いているのだ。
「ふふ、美少女なのに謙遜家さん」
「からかわないで下さいー」
ゆきが舞台へ出て行った。のはなと対峙して、二人の主従のシーンが始まる。
物語は終盤だ。
オセローとデズデモーナの愛は、破綻の一途を辿っている。破綻の一途を辿っていながら、すれ違っていく個人と個人は、互いに自身を見い出さんばかりに求め合っていた。