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自由という欠落
第6章 もつれていく
「せっかくだし買おうよ。陽子はピンクね」
「無理無理、可愛すぎる」
「可愛すぎる陽子にピッタリじゃない」
「じゃあ、貴女嵌めてみなさいよ」
「ぁっ……ん」
「変な声出さない!」
陽子が佳乃の手をとって、今しがた自身から抜いたばかりのリングを嵌めた。小ぶりのリングは、いかにしても左手の薬指にフィットする。
心陽は、紫陽花のイヤリングから左隣の販売ブースに目を移す。
レース編みの付け襟やらお袖留めやらが並べてあって、昨今は多数派ファッションにもこうしたものが取り入れられるのかと感心する。何せ売り子は、トレーナーにジーンズという出で立ちだ。
「山本さんじゃない。お疲れ様、お友達?」
「こっちはお姉ちゃん。山本陽子。陽子さんは、まぁ、うん」
「仲良いね、良いなぁ、いつまで経っても高校生みたい。私、最後に友達と手を繋いだのだっていつだろ」
心陽はバイセクシャル、陽子はレズビアンであることに、隠す必要性はない。
ただし、世の中には男しか愛せない、しかも女という生き物が男という生き物しか愛せないと信じて疑わない女も存在している。にわかに話しかけてきたレース編みの職人もとい同級生も、以前、教室でそうした性癖を披瀝していた。さして親しくもない人間に、その場限りのコミュニーケーションをとるためだけに頭を酷使させては気の毒だ。
陽子達は猫のコイルリング、それからレース編みのコースター、ファー生地で縫われたハートのポーチ、ビーズのモチーフのヘアゴム、樹脂粘土のブローチを購入した。飽きもしないで、全て揃いかペアである。
服飾研究会の教室を出ると、陽子達は案内パンフレットを開いて、またぞろどこかの教室発表に目をつけた。