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自由という欠落
第6章 もつれていく
* * * * * * *
初冬の夜風が、熱のこもった繁華街を吹き抜けていく。
着替えて部室を片付けたあと、のはなはまひると、ゆきの企画した打ち上げの列に混じった。数名はよその団体の後夜祭へ抜けていったにせよ、参加者数は十五人に上った。
「のはなちゃん、こっちこっち。ほら、私にくっついて。この時間は、こわーい酔っ払いのオジさん達がいっぱいだ」
「ひゃっ、美乃梨ちゃん……」
素面で酒の回った調子の同級生の腕の中で、のはなは肩を狭めて身をよじった。
先頭のゆき達を見失わないほどの歩調は保って、前後に並んだ部員達も、各々、飲み会らしい気分に入っていた。
まひると美乃梨、一歩、河村。一回生のこの顔触れでの行動も、今夜が最後になってしまうのか。心陽を交えた三人とはまた違ったひとときを、半年間、楽しんだ。
鶏専門のダイニングバーの店先をくぐると、そこはかとなく食欲をそそる匂いと、木造建築の温かで柔らかな香りが、のはな達を迎え入れた。ファーの付いたショートブーツを脱いで框に上がったのはなの足裏を、床独特の質感が癒す。
個室に入ると、のはなはそこに腰を下ろすことが当然の足どりで、まひると肩を並べて落ち着いた。
昼まで相手役を演じていた友人は、すっかり元の顔に戻っている。グレーとコーラルが映えるメイクに、ブリティッシュなネイビーのワンピース。白い提灯袖が、もう一枚ブラウスを合わせているようにも見える。裾にはクロス模様のレース。襟足を残したサイドテールは、黒いリボンが結び目を隠していた。
オーダー無制限の宴会コースで、演劇部員らは手始めの料理を頼んだ。
まずは突き出しとドリンクが並ぶと、ゆきが労いと開会の辞を述べて、続いてしよりが挨拶した。それから芳樹の重大発表。のはなは既知してしまっていたが、白状するには周囲の雰囲気が感動的すぎた。存外に人望の厚かったらしい花園芳樹の引退宣言に、数人の部員達が鼻をすすっている。両隣の一回生らも彼の将来を祝福すると、のはなも彼女らに倣った。