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自由という欠落
第6章 もつれていく
「のはな、届かないのあったら言ってね。取ってくるから」
「有り難う」
「のはなちゃん、はい。つくね平気?」
「有り難う、好きよ」
まひると一歩は、のはなに懇切に世話を焼く。
二人に申し訳なさを感じながら、のはなは彼女らとのはかなしごとを楽しんで、食事を進める。美乃梨や河村も、上級生らも羽目を外しにかかっていた。ゆきも、いつの間にやら酒に飲まれている。
「お姉さーん!生酎!」
「カシス追加で!カルピスサワーもお願いします!」
「ウーロンハイ!」
「えっと、待って、私はビール!」
「食べ物追加したい人ー!」
「すみません、トサカ焼き!あと軟骨下さい!」
「ゆき、勇気ありすぎ……」
のはなに優しい友人達に、上級生達。いつまでも共に過ごしていたい顔触れと、どれだけ舌鼓を打っても足りない、温かい料理。もちろん坂木の料理ものはなを安心させる味だが、まひる達と囲む食卓は、のはなのこれまで知らなかった温もりがある。
昼間の舞台を振り返りながら、のはなは、ふと上座に目を遣った。芳樹が同級生らとスマホゲームをしながら酩酊している傍らで、ゆきが届いた料理を取り分けながら、しよりとじゃれ合っていた。
「可愛い顔して、軟骨とかオジさんだし!」
「良いじゃなーい。美味しいよ、しよりも食べる?」
「うん、まぁ」
「トサカは?」
「ごめん、無理」
「えー!珍味だよ、これ」
「じゃあゆきが食べさせてくれる?」
「もっちろーん」
仄かに焦げた赤い肉びらを挟んだゆきの唇が、しよりのそれに近づいていく。真知が咎めるのも聞かないで、ゆきはしよりにトサカを移した。口に合わなくても私の味が付いてるよ、と、ゆきが得意げに笑う。しよりは恨めしげにゆきを見ながら咀嚼して、彼女の指を手持ち無沙汰にもてあそぶ。
部をまとめる三回生の二人は、終始、この調子だ。
友達という関係にとどまるのはなとまひるを羨ましがったゆき。他に好きな相手がいる、そう言って、芳樹の好意を退けたしより。
のはなの中で、散らばっていたパズルの辻褄が合った。
世の中は、かくも愛に溢れている。それなのに、何故。
何故、のはなだけ。…………