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自由という欠落
第6章 もつれていく
ラストオーダーの時間になって、ゆきは二次会を提案した。まひるやのはなは、店を移る道中のプリクラまで、居残り組に同行することにした。
まひるの隣で、終始、のはなはカルチャーショックを受けていた。
規律正しい少女達の花園にいたのはなにとって、文化祭の打ち上げは、土日の校内で開く反省会だった。娯楽においては、ティーパーティーや余興の出し物くらいだったという。
九時を回った商店街は、まひるに春先までの日々を懐かしませた。
まひるの地元にも、小規模の商店街がある。丹羽の店はその近くの小路にあって、遅番に入った夜の帰路は、大方の店がシャッターを下ろしていた。時折、遅れて看板を下げている、めかしこんだ店員の姿があった。
英文字型のポップなライトや、洋服を吊ったショーウィンドウ。物販店特有の屋根。閉店準備を始めている軽食店。ここも昼間は過不及なく賑わうのだろうと、想像つく。
プリクラに十二人も入れることを、まひるは初めて知った。そればかりか、先に帰った三人が残っていたとしても収まったろうくらい、小さな世界はことのほか奥ゆきを備えていた。
集合写真のあと、各自、好き好きにゲームセンター内へ散らばっていった。次の店の予約時間まで余裕があるらしい。
「お父様が、運転手さんを寄越してくれるって。まひるも送って行くと言っていたから、もう少し待ってて」
「電車あるのに、悪いなぁ」
「本数減ってるでしょ。運転手さんはオジさんだけど、私がいるから大丈夫」
屈託なく笑ったのはなは頼もしかった。
もとより丹羽家に仕える人間に、のはなにぼうぞくな行為を働ける者はいない。根拠があっての発言にせよ、少なくともまひるは、のはなに護衛させる立ち位置ではなかったはずだ。
「お姫様に守ってもらうなんて、やだな」
「そういうのじゃないわ。私は会社を継がないし、社長にもなれない」
「そうなの?」
婚約者がいるもんね、とは、言えなかった。
西原の存在が、まひるの頭を遠ざかっていた所以もあった。
大切な存在を、愛する人を、守り抜く。
それこそ夢物語でも不可能ではないか。そうした不可能が可能であれば、最低限、全ての夢物語は幸福に幕を閉じられたろう。夢物語にも悲劇がつきまとうのは、久遠の愛より、守るという行為が難関だからだ。