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自由という欠落
第7章 必要のないもの
月のものが降りていると、オリーブオイルやら白ワインやらチーズやらを使った料理が、身体に響く。
のはなは団欒の席を外して、高層階のホテルの化粧室に駆け込んだ。
鈍痛や悪心の割りに、物理的な程度はたかが知れていた。個室を出ると、見るからにクリスマスを間近に浮かれたような女達が鏡を凝視している隙間に入って、自身も化粧を確認した。
醜い顔だ。
同布フリルが襟を縁取るジャケットに、控えめなバッスルがサイドに付いたタイトなスカート。中高生らが土日の塾などに通うために発売された感じのチャコールグレーの上下セットは、論をまたず、のはなの行きつけの店にしては控えめだ。髪はカチューシャを嵌めただけだ。合わせて必要最低限の化粧は、もとより崩れる懸念もなかった。
隣で鏡を覗いている少女は、本人も自覚していないだろう、こぼれんばかりに口角の綻んだ唇に、彼女自身の顔色と同じ、偏光ラメの混じったピンク色のリップを塗り直している。のはなは彼女のネイルのパールの眩しさに、目が眩む。
「遅いじゃないか、のはな」
廊下を出たところに西原がいた。
今しがたまで好青年を気取っていた婚約者は、食卓での名残りを仄見せている。のはな達の脇を通った女の一人が、微笑ましげな目を向けていった。
「気分が優れないんですか?……つわり、じゃ、ないだろうな。お前は俺の所有物だが、俺はお前にとってクズじゃない。常識はわきまえてきたはずだが」
「……ぇ、え……。ええ。違うわ、生理痛がひどくて」
「ちっ、面倒くせぇ」